博士課程3年の阿部さんの論文が出版されました。おめでとうございます!
Authors: Kenichi Abe, Hidenori Hashimura, Haruka Hiraoka, Shoko Fujishiro, Narufumi Kameya, Kazuteru Taoka, Satoshi Kuwana, Masashi Fukuzawa, Satoshi Sawai
Title: Cell–cell heterogeneity in phosphoenolpyruvate carboxylase biases early cell fate priming in Dictyostelium discoideum
Frontiers in Cell and Developmental Biology (2024) 12, 10.3389/fcell.2024.1526795
DOI: 10.3389/fcell.2024.1526795
以下、論文『細胞性粘菌 Dictyostelium discoiudem の分化運命決定におけるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)の機能解析』の内容を解説した、澤井先生のXの投稿から・・・。
細胞性粘菌 Dictyostelium discoiudem は未分化のアメーバが集合し子実体を形成します。子実体の約3割の細胞が柄となって死に、その犠牲のもとに残りの7割が胞子となって生き残ります。アメーバ社会のこの厳しい掟は、多細胞体制や微生物間の利他行動の進化にとって重要なテーマです。
長年の研究から、グルコースを栄養源として与えられた粘菌細胞は、そうでない細胞とくらべ胞子になりやすいこと、また細胞内ATP濃度が比較的高い細胞が柄細胞になりやすいことなど、代謝との関係が示唆されてきましたが、細胞運命がどのように決定しているか謎のままです。
今回注目したPEPCは、解糖系からTCA回路への接続ノードにある
PEP + HCO3− → オキサロ酢酸 + Pi
を触媒し、バクテリア、植物で代謝フラックスの調節に関わる重要な酵素です。PEPCは菌類と動物では存在しない一方、今回、その姉妹群に位置するアメーボゾアにおいて初めての機能解析です。
増殖期のPEPC発現は、栄養培地からグルコース除くと低減し、グルコースを添加すると回復します。PEPCを発現した細胞を蛍光標識で追跡すると胞子へ分化することがわかります。
PEPCを欠損させた株では予定胞子細胞の割合が低下し、逆に予定柄細胞の割合が増加し、子実体の胞子が未成熟です。PEPC欠損株と野生株の1:9比率のキメラでは、PEPC欠損株が予定柄領域と柄に集積します。これらの結果は、PEPCの発現が胞子になりやすさと強く関係していることを示しています。

マウスES細胞の分化バイアスには糖代謝依存的なヒストン修飾が関わってますが、粘菌でもグルコース存在下でmTORC1活性が増加、AMPK活性が低下し、細胞異質性はヒストンH3K4メチル化に依存するようです。細胞のエネルギー状態とその長期記憶は、多細胞進化に普遍的特徴であるかもしれません。