どのような細胞を対象としていますか。

細胞の動きとその指向性、集団性が大切である、細胞性粘菌、ネグレリア、免疫細胞(培養細胞、ゼブラフィッシュ)、神経堤細胞(ゼブラフィッシュ)を用いています。

細胞性粘菌の多細胞性とはどのようなものですか。

細胞性粘菌Dictyostelium(和名 キイロタマホコリカビ)はアメーバ界の多細胞生物の代表選手です。アメーバ界は動物、菌類、植物と独立した系統、アメーバプロテウス、赤痢アメーバのような単細胞アメーバ、南方熊楠の研究で有名な真性粘菌などが属しています。Dictyosteliumのゲノム配列(http://dictybase.org)解析によると、アメーバ界の祖先は、菌類とわれわれ動物の共通祖先が植物の祖先と枝分かれした後に出現したようです。真核細胞のそれぞれの界で、多細胞化して生き残るという生活史がみられるということは、多細胞化が過去に何度も平行して起こっていると考えられます。発生という階層を超える複雑な現象がいかにして進化してきたのか、分子機構、生き残り戦略などを理解する上で大変、魅力的な対象です。

粘菌の無性生殖においては、走化性と細胞間シグナリングとを巧みに組み合わせた細胞集合を基礎としています(上図)。餌が豊富にある場合、粘菌は細胞分裂を繰り返し増殖しますが、飢餓状態に陥ると、粘菌細胞は増殖を停止し、細胞外サイクリックAMP(cAMP)への走化性を用いて多細胞体制を構築します。cAMPの刺激を受けた細胞はさらなるcAMPの合成と放出を行います。このリレーが細胞間で約5分から7分の周期で揃っておこることで、cAMPは空間的に同心円やらせん状の波となって伝播します(5hr)。細胞は向かってくる波の上昇面に対して走化性を示し、結果として数十万個の細胞が集合するのです(8hr)。マウンドと呼ばれる細胞塊内では、細胞分化が進行し(12hr)、移動体と呼ばれる多細胞体が形成されます(18h)。移動体は光と酸素の多い環境に移動し、最終的に子実体を形成します(24hr)。子実体の胞子は再び増殖に適した環境のもとで発芽し、この生活環が繰り返されます。