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研究についてQ&A

qmark澤井研の研究テーマは物理学でしょうか?それとも生物学でしょうか?

amarkメンバーはそれぞれ得意な分野からアプローチしています。澤井研に在籍している、もしくはした大学院生やスタッフのバックグラウンドは多岐にわたります。生物学にとどまらず、数学、物理、応用化学、薬学、農学の出身者が集っています。これまでのところ学内の他学部からの進学者の割合が多いです。今年度も例外なくその多様性は維持されています。いくつかのスケールにまたがって階層間で展開するダイナミクスに共通した自己組織的な性質や、細胞運動に関わる細胞内のパターン形成やシグナル処理の理解には、細胞や多細胞レベルでの現象の可視化と定量化に加えて、数物的な考え方は大切ではあります。ですが、あまり枠にとらわれずに取り組んでいただく方が、科学にとっては良い結果をもたらすかもしれません。

  

 

qmark澤井研では粘菌を扱っていると聞いたのですが?

amark最近では、免疫系の細胞や、構成系(cell-free system)も対象として扱い始めました。ですので、動く細胞のダイナミクスに関連していて、適切な手法でアプローチできれば粘菌に限るものではありません。それでも、いまだに主役は細胞性粘菌 Dictyostelium (ディクチオステリウム)というアメーバ界に属する真核生物が研究材料です。愛称はDicty(ディクティ)です。アメーバ細胞は一般的に、餌や侵入者に向かって方向的に移動できる特徴を持っています。これは特定の化学物質に対して選択的におこる細胞の極性形成をともなった運動であることから、一般に走化性と呼ばれています。Dictyostelium と免疫細胞の運動は、細胞レベルの現象面の類似だけではなく、多くの部分に共通性がみられます。Dictyostelium は培養のしやすさ、分子遺伝学的な操作、可視化、運動の解析などのしやすさから、利点が多くあります。

 

qmarkこれまでの研究でどんなことが分かってきたのですか?

amark 細胞運動の優れたモデル細胞種である細胞性粘菌について、(A)走化性誘引物質として働くcAMPの集団振動の発生機構、(B)cAMPらせん波の決定機構、(C) 進行波によって一方向的な運動が引き起こされる機構、(D)粘菌細胞内のアクチンのらせん波とアメーバ様の膜変形との関連、の4点について明らかにしてきました。これらは、高校の生物学教科書でもおなじみの細胞性粘菌にの集合過程や運動について、古くからの謎とされてきた中心的な課題であるだけでなく、生物種を問わず共通してみられる、パターン動態、細胞運動、細胞の知覚情報処理の理解に通じるものと期待されます。

 

qmark粘菌の多細胞性とはどんなものですか?

amark細胞性粘菌Dictyosteliumはアメーバ界の多細胞生物の代表選手です。アメーバ界にはアメーバプロテウス、赤痢アメーバのような単細胞アメーバ、南方熊楠の研究で有名な真性粘菌などが属していますが、これらは動物でも菌類でも植物でもありません。Dictyosteliumのゲノム配列(http://dictybase.org)を元にした系統樹によると、アメーバ界の祖先は、菌類とわれわれ動物の共通祖先が植物の祖先と枝分かれした後に出現したようです。アメーバ界は進化的に実に注目すべき位置にあると言っていいでしょう。真核細胞のそれぞれの界で、多細胞化して生き残るという生活史がみられるので、多細胞化が過去に何度も平行して起こっていると考えられる、と述べたのはこのことです。発生という階層を超える複雑な現象は、細胞の性質から不可避的に出現せざるを得ないようです。

lifecycle

さらに、粘菌は生き残りのために、走化性と細胞間シグナリングとを巧みに組み合わせて用いています(上図)。餌が豊富にある場合、粘菌は細胞分裂を繰り返し増殖しますが、飢餓状態に陥ると、粘菌細胞は増殖を停止し、細胞外サイクリックAMP(cAMP)への走化性を用いて多細胞体制を構築します。cAMPの刺激を受けた細胞はさらなるcAMPの合成と放出を行います。このリレーが細胞間で約5分から7分の周期で揃っておこることで、cAMPは空間的に同心円やらせん状の波となって伝播します(5hr)。細胞は向かってくる波の上昇面に対して走化性を示し、結果として数十万個の細胞が集合するのです(8hr)。マウンドと呼ばれる細胞塊内では、細胞分化が進行し(12hr)、移動体と呼ばれる多細胞体が形成されます(18h)。移動体は光と酸素の多い環境に移動し、最終的に子実体を形成します(24hr)。子実体の胞子は再び増殖に適した環境のもとで発芽し、この生活環が繰り返されることになります。また注目すべきは、これらの過程が主に自己組織化を通じて成立しているということです。

 

 

 
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